TCR遺伝子治療は、NY-ESO-1抗原が発現するがん細胞のみを破壊することができるキラーリンパ球のがん抗原を認識する部分(T細胞受容体)の遺伝子を、患者さんから採取した自己リンパ球に体外で導入し、増殖させた後に再び患者さんの血液に戻す治療法です。(下図参照)
現在TBI1301-ワクチン(Tricombo)遺伝子治療を実施しています。これはTCR遺伝子治療にワクチンを併用した治療です。対象疾患は軟部肉腫(滑膜肉腫、脂肪肉腫など)で、腫瘍にNY-ESO-1抗原が発現されていることが確認され、かつHLA-A*24:01か A*02:06陽性の患者さんです。
日本では、三重大学を中心とした研究グループが臨床試験を行っています。海外からはメラノーマ、滑膜肉腫を対象にした臨床試験の報告がされています。(詳細は「研究活動」で紹介します)
参加適格基準 《 参加できる人、参加できない人 》
TBI1301-ワクチン(Tricombo)遺伝子治療に参加していただくにはいくつかの条件があり、その条件を満たす方が対象となります。
<この試験に参加いただける条件>
- 組織診または細胞診にて確定診断の得られた進行または転移性の軟部肉腫を持っている方
- 手術によってがんを完全に取り除くことが不可能で、標準的な治療法(化学療法、放射線療法など)が効かなくなった固形がんを持っている方
- 白血球のタイプ(HLA)がHLA-A*02:01またはA*02:06の方
- がん細胞にがん抗原NY-ESO-1を持っている方
- 全身状態が保たれている方
- 年齢
- <治験薬の安全な投与量を確認する第1相の条件>
年齢が20歳以上である方 - <治験薬の投与量が確定した後の第2相の条件>
年齢が12歳以上である方
(12歳以上16歳未満の場合は体重35㎏以上の方)
- <治験薬の安全な投与量を確認する第1相の条件>
- Tリンパ球を得るために採血の時点で、前治療(手術、化学療法、放射線療法など)を実施中でなく、前治療の影響からの回復が見込まれる方
- 骨髄、心臓、肺、肝臓、腎臓などに重い障害がなく、検査値が以下の基準を満たす方
白血球数・・・・・・・・・ 2,500 /mm3以上
ヘモグロビン・・・・・・・・・ 8.0 g/dl以上
血小板数・・・・・・・・75,000 /mm3以上
総ビリルビン(T-Bil)・・・・・ 基準上限値の1.5倍
AST(GOT),ALT(GPT)・・・・・基準上限値の3.0倍未満
クレアチニン(Cr)・・・・・・・基準上限値の1.5倍
左室駆出率・・・・・・・・・50%超
経皮的酸素飽和度・・・・94%以上 - 本治験への参加にあたり十分な説明を受けた後、十分な理解の上、文書による同意をいただける方
<この試験に参加いただけない条件>
- 以下の重い合併症がある方
重い心臓病
コントロール不良な糖尿病または高血圧症
重い感染症
胸部X線検査による明らかな間質性肺炎または肺線維症
活動性の自己免疫疾患 - 重いアレルギー反応を起こす可能性がある方
- 中枢神経(脳や脊髄)にがんが広がっている方
- 活動性の重複がんがある方
- B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIV(エイズウイルス)またはHTLV1(成人T細胞白血病の原因ウイルス)に感染している方
- ウシ、マウス、ウマの動物由来成分に対して重いアレルギーがある方
- 本治験で用いられる薬剤に対して重いアレルギーがある方
- 治験参加に対する同意に影響する精神的疾患や薬物依存がある方
- 妊娠中、授乳中の女性、または男女を問わず治験参加に対する同意取得時から治験薬の点滴終了後6ヶ月間、コンドームなどの避妊方法による避妊に同意できない方
本治験に参加いただくために、他にもいくつかの条件がありますが、診察や検査の結果をよくみた上で担当医が判断します。