研究について

(8)新しいがん免疫療法のトランスレーショナルリサーチ

TCR遺伝子改変T細胞の輸注療法

がん抗原を認識するT細胞受容体(TCR)遺伝子を組み込んだウイルスをリンパ球に感染させることにより、リンパ球に新たなTCRを発現される技術が開発されています。このTCR遺伝子改変T細胞をがん患者さんに輸注することで、がんを攻撃するキラーT細胞を体内に導入して、がん細胞を攻撃しようとするものです。このTCRの治療法は、日本では三重大学が始めて行いました。すでに海外、アメリカを中心にメラノーマ、滑膜肉腫を中心に臨床開発が進んでいて、有効例の報告があります。

2010年に初めて食道がん例に対してTCR遺伝子改変T細胞輸注が行われ、これまで食道がん10例を対象にした遺伝子治療臨床研究が終了しました。その結果、安全性は問題なく、1回輸注したリンパ球が長期間にわたり、血液中に存在し続けることがわかりました。(論文発表 Clin Cancer Res. 2015;21(10):2268-77)

 

内在性TCRを抑制させるsiTCRテクノロジーの応用

三重大学はタカラバイオ(株)との共同研究で、新規のレトロウイルスベクターの開発研究を行いました。TCRα鎖とβ鎖遺伝子の読み取りを抑制すサイレンシング遺伝子(siRNA)をベクター内に搭載します。導入用のTCR遺伝子にはコドン修飾をかけることによりsiRNAの影響を受けずに、目的のTCRだけが効率よく発現できるシステムです。このテクノロジーにより、TCRミスペアリング(アイノコTCR)を防ぎ、また内在性TCR抑制により、他人のリンパ球利用への道が開けます。

実施中のTCR遺伝子改変T細胞の輸注療法の臨床試験

  • siTCR-WT1遺伝子改変T細胞輸注
    TCRがWT1抗原に反応できるようにしたT細胞を対外で作製し、患者さんに輸注するものです。siTCRテクノロジーを応用したベクターでTCR遺伝子導入をした初めての臨床研究です。白血病、骨髄異形成症候群を対象に2013年から開始しました。三重大学、名古屋大学、藤田保健衛生大学、愛媛大学の多施設共同臨床試験で、このような遺伝子改変細胞を三重大学で製造し、各期間へ供給する始めての取り組みです。8例の患者さんに輸注が行われ、現在、結果を解析中です。TCR遺伝子改変T細胞輸注による大きな副作用はみられませんでした。
    (学会発表 米国血液学会2015)
  • TBI-1201遺伝子治療医師主導治験(MAGE-A4抗原)
    食道がんに約50%に発現し、いろいろながんに発現されているMAGE-A4抗原に対するTCR遺伝子をリンパ球に導入して、患者さんに輸注する治療で、2014年から開始されています。対象はMAGE-A4抗原が発現していて、通常の治療が無効となったがん患者さんです。遺伝子導入リンパ球を輸注する前に、化学療法剤(シクロホスファミド、フルダラビン)を前処置として投与します。この試験は、三重大学、国立がん研究センター中央病院、国立がん研究センター東病院、慶応義塾大学、愛知医科大学、名古屋医療センターにおいて、多施設共同医師主導治験として行われています。
  • TBI-1301遺伝子治療医師主導治験(NY-ESO-1抗原)
    食道がん、メラノーマに約30%、滑膜肉腫、粘液性脂肪肉腫では80%以上に発現し、いろいろながんに発現されているNY-ESO-1抗原に対するTCR遺伝子をリンパ球に導入して、患者さんに輸注する治療で、2015年から開始されています。TBI-1201同様、対象はNY-ESO-1抗原が発現していて、通常の治療が無効となったがん患者さんです。遺伝子導入リンパ球を輸注する前に、化学療法剤(シクロホスファミド、フルダラビン)を前処置として投与します。この試験は、三重大学、国立がん研究センター中央病院、国立がん研究センター東病院、慶応義塾大学、愛知医科大学、名古屋医療センターにおいて、多施設共同医師主導治験として行われています。

名古屋市科学館で展示されています。

2015年から三重大学の開発したTCR遺伝子改変T細胞の紹介が、名古屋市科学館で展示されています。