研究について

(5)Off-the-shelf細胞製剤の開発

これまでのがんに対する遺伝子改変T細胞輸注療法は、 患者本人の末梢血リンパ球から遺伝子改変・拡大培養をへて得られたT細胞を用いて行われてきました。この様なオーダーメイド的細胞製剤を用いた治療は、調製期間中の病状悪化による施術不能や製剤の不均一性に起因する奏功性のばらつきなどが常に問題になり、多くの患者への適応の妨げになっています。健常人由来の非自己リンハ球を用いた遺伝子改変T細胞を事前に調整し、性能試験を経た後に保存しておくことが可能になれば、これらの問題点を克服することが出来ます。この様なOff-the-shelf 細胞製剤の開発にあたって克服すべき最大の課題は、非自己T 細胞が宿主を攻撃する移植片対宿主病(graft versus host disease:GvHD)になります。一つの解決法として、アロ反応性を持たずGVHDを誘発しない細胞を細胞製剤の材料として用いることが考えられます。末梢血の2〜5%程度を占めるVγ9Vδ2 T細胞はMHC非拘束性にリン酸化抗原を認識するTCRを発現し、腫瘍細胞を傷害する高い活性を持っています。したがって、アロMHCに反応する他のT細胞とは異なり、GVHDを起こす可能性が低い細胞集団です。さらにVγ9Vδ2 T細胞は活性化Fc受容体CD16を発現し、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)も発揮します。多くのがんで、治療標的とした抗原が失われたり、発現が減少することがありますが、ADCC活性を利用して、他のがん抗原に対する抗体と併用することにより、こうした問題点にも対処出来るT細胞製剤になり得ます。私たちは、癌胎児性抗原を標的としたCAR-T細胞の原料として末梢血のVγ9Vδ2 T細胞を用い、膵臓癌に対する治療効果と安全性を明らかにしようとしています。